吉澤嘉代子から目を離すな(3) – 「雪」:生まれて初めて愛した人 #吉澤嘉代子


皆さんの「生まれて初めて愛した人」は誰だろうか。
勿論当時の恋人だった人もいるだろうし、母親や父親、姉や兄だという人もいるだろう。
その他、学校の先輩、先生……
色々、様々だと思う。

吉澤嘉代子にとって「生まれて初めて愛した人」は、彼女がフリースクールに通っていた頃の友だち「ゆきちゃん」だったようだ。

──「雪」は親友に向けて書いた曲なんですよね。

はい。ゆきちゃんっていう、フリースクールに通ってた頃にできた友達で。いろんなことがあったから、友達という感覚ともちょっと違うんですけど。友達以上の感覚……ちょっと難しいですね。曲を書くのが今までで一番苦しかったです。なかなか書けなくて、レコーディングも1日飛ばしてしまったし。

──それでも書きたかったし、歌いたかった。

自分の少女時代を書く上でその子は欠かせない人なので。本当につらかった。誰かに対して書くのが初めてだったし、形に残っちゃうからヘタなことは書けないと思って。歌詞を書くたびに自分の底の浅さを思い知るという作業でした。

──もう本人には聴いてもらったんですか?

いや、本人に「できたよ」って伝えたら「CDができたときに聴きたい」って。

──じゃあ、曲としては完成したものの、おそらく吉澤さんの中ではまだ完結していないですよね。

曲を書くのに苦労してるとき、本人にも電話で「全然書けないんだよね」って言ったんです。そしたら「この曲はずっと完成することはないのかもね」って言ってくれて。なるほどなと思ったら気持ちが軽くなって、曲にすることができました。

吉澤嘉代子「箒星図鑑」インタビュー (3/3) – 音楽ナタリー Power Push」より抜粋

勝手な想像をすれば、当時のこの「ゆきちゃん」はきっと、相当困難な状況を抱えていたと思われる。
吉澤嘉代子ですら「いつだってただそばにいる いるだけ」、それしか出来ないと痛感するわけだ。
そして「あなたがあなたを救う」のを黙って見ているしかない。
一人でいるより二人でいた方が孤独が深まる、そんな感じだろうか。

これは「ゆきちゃん」への、ある意味「決別」を歌っているのではないか。
「ゆきちゃん」は、水色の雪解け水が流れる川を、魚になって川下へ泳いでいってしまうのだ。笑いながら、そして泣きながら。
川縁に立ってそれを見ているしかない吉澤嘉代子に、「ゆきちゃん」はこう言う。
「季節は必ず巡る」と。

こういうシンプルなオケで奏でられる美しい旋律の曲は、歌い手の真価が問われる。
端的に言うと、ごまかしが効かないのだ。よしんぼレコーディングでそれが出来たとしても、ライブではそうはいかない。メッキはすぐに剥がれてしまう。
吉澤嘉代子は、この曲を可愛らしさ、そして優しさだけでは済ませない。どこか寂しさと厳しさをも抱えて、繊細に歌い切る。完璧だ。

さて「ゆきちゃん」は、この曲を聴いただろうか。
吉澤嘉代子は、幼い夢を引き連れて、彼女に逢いに行けたのだろうか。