居眠り磐音


最近「時代劇」が随分減ったと思う。
定期的にテレビ時代劇を放映するのはNHKぐらいで、民放はほぼ皆無。
映画でも、たとえば「忠臣蔵」なら「吉良上野介の視点から」や「もしも大石内蔵助が小心者だったら」といった、今までになかった視点で描かれるケースが増えて来た。

翻って本作。
「時代劇エンターテイメント」という触れ込みだが、その実とてもオーソドックスな時代劇だと感じた。

原作は佐伯泰英氏の人気シリーズ。既にNHKで何度かドラマ化されている。
九州の豊後関前藩の藩士である坂崎磐音は、江戸での剣術修行を経て帰郷したが、藩の守旧派の陰謀により幼なじみの河出慎之輔と彼の許嫁を失う。そして磐音自身も、もう一人の幼なじみである小林琴平を討ち取ってしまう。
傷心の磐音は許嫁であった奈緒を残して豊後を離れ、浪人として江戸に流れ、深川の長屋に住み始める。
昼間は鰻屋の厨房に入っているが、長屋の主人・金兵衛の紹介で両替屋「今津屋」の用心棒となり、両替屋「阿波屋」との対立の中で様々な陰謀に巻き込まれていく……あらすじはこんなところだ。

昼間の磐音は、長屋の子供たちにイジられても穏やかに微笑む、鰻屋の調理人。
しかし夜になると凄腕の剣術使いと化す。「必殺仕事人」の主人公・中村主水に少し似ているか。
剣の切っ先を下げ、目を閉じて構える「居眠り剣法」で、今津屋を襲う阿波屋の手先をばっさばっさと斬り捨てていく様は実に痛快だが、幼なじみ二人とその妹を失った罪悪感故の「陰」も漂わせている。
それでも剣を捨てることなく、江戸で用心棒を請け負い続ける磐音。
原動力は、三人への「贖罪」なのだろうか。それとも劇中で磐音自身が言う通り、「地獄に生きる覚悟をした」ということなのだろうか。

時代劇初主演である松坂桃李は、相当な意気込みで本作に挑んだと見受けられる。ここ数年の出演作の傾向からして、ただの「二枚目俳優」に収まるつもりはないと思っていたが、日中の「昼行灯」と、過去の悲しみを背負ってもなお剣を捨てず生きようとする様を見事に演じ切っていた。はまり役ではないだろうか。
長家主の娘・おこんには木村文乃。ぼんやりしている磐音に何かと世話を焼く、気のいい女性。磐音の過去を知り国元に残した許嫁のことを慮る優しさもある。松坂桃李との共演歴が多いからか、お互い気心は知れている感じがした。とにかく可愛い。
磐音の許嫁・小林奈緒には芳根京子。「べっぴんさん」の頃から思っていたが、この人はとにかく泣きの演技が素晴らしい。流す涙に強さと儚さを現すことの出来る女優はそうそういない。
両替屋「阿波屋」当主・阿波屋有楽斎には柄本明。憎々しさと、凄みと、食えなさ。さすがの迫力であった。

出演していたピエール瀧氏の逮捕により公開自体危ぶまれたが、代役(奥田瑛二!)を立てて撮り直しどうにか予定通りの公開に漕ぎ着けた模様。
会見の記事によると、松坂桃李をはじめ出演陣や製作スタッフもホッと胸をなでおろしているようだ。即ちそれは「何としても本作を公開したい!」という意気込みの強さ故だろう。

事実、本作は「2019年の時代劇」になっている。それも「ど直球の時代劇」だ。
「殺陣の迫力がほんの少し足りない」とか「磐音がおこんに過去を打ち明けるシーンがやや唐突」とか細かい不満はあるものの、奇をてらうことなく真正面から時代劇映画を作った、その意気込みは充分伝わって来た。

興行成績次第だろうが、是非シリーズ化して頂きたい。
松坂桃李が願う通り、本作のヒットは時代劇を盛り上げることに確実に繋がると思う。