高山一実「トラペジウム」


一度も会ったことはないが、割と長い付き合いになるネットの友人がいる。
彼は自分が推すアイドルグループのメンバーの不遇さを嘆くことが多い。
それが時たま攻撃的になることがあり、他のファンとの軋轢を産むこともある。

今はもっぱら乃木坂46の高山一実(たかやま・かずみ)さんについてのぼやきが多い。
「もっと女優としてのポテンシャルを評価して欲しい、なのにバラエティ要員ばかり」と嘆いていたが、最近は諦めの境地のようだ。
私は乃木坂ファンではないので実情は分からないが、今回取り上げる長編小説をひとりで書き上げられるのは、ただの平凡なアイドルではないと思う。
テレビでお見かけする限り、大変お綺麗なのに親しみやすく愉快な女性に思えるが、それだけの人ではないのだろう。

「たえ」さんによる素晴らしい書影にも惹かれてAmazonで購入。
件の友人に特に薦められたわけではないが、「これから読んでみるよ」と伝えた時「本当に買ってくれたんだ?! ありがとう!!」と嬉しそうにしていたっけ。

主人公は東(あずま)ゆう、という千葉在住の高校1年生の女の子。自分の苗字に絡めた「東西南北」に従って、3人の女の子を巻き込み、国民的アイドルグループを結成する、という野望を抱いている。
巻き込まれた3人の女の子はというと……
「お蝶夫人」のような髪型なのにテニスは下手くそな華鳥蘭子(かとり・らんこ)。
ロボット研究会の「プリンセス」でネットでもかなりの有名人である大河(たいが)くるみ。
小学校時代の同級生だったがプチ整形のおかげか大変な美人になっている亀井美嘉(かめい・みか)。
くるみと同じロボット研究会所属のカメラ小僧であるシンジも巻き込んで、「東西南北」を有名にすべく、ゆうはボランティア活動に勤しんだり、お城のガイド役を買って出たりと、やや暴走気味に奔走する。

東ゆうが考える「東西南北」の売り込み戦略は実に周到で、さすが現役アイドルである作者ならではだなと感じた。
とはいえ、自分とは違う人間がグループに3人もいるわけで、いつもゆうの思惑通りになるわけではない。
それでも、あまり悩む雰囲気もなくトップアイドルへの道を突き進もうとするゆうだが、次第に周囲と軋轢を生み、ある出来事を機に「自分のやり方は間違いだったのではないか」と気付かされるのだ。

作者自身がそれこそ「国民的アイドルグループ」の結成メンバーだから、「主人公の東ゆうは自分自身の投影か」とつい考えてしまう。
実際のところはさておき、少なくとも「私は東ゆうみたいに、本当に大切にしなきゃならないことに気付ける人でいなきゃ」と強く願っているのではないだろうか。

ラスト近くの流れはやや性急な感じがしたが、人物や情景の描写は総じて丁寧で読みやすい。そして既に文章に独特のリズムがある。
多忙な中これほどの長編を書き上げるのは大変だったと思うが、次回作、期待しちゃいます。