[再掲]フットボールとは戦争で、世界で、人生で、愛である – 小説「エンダーズ・デッドリードライヴ」感想


※本記事は2014年当時開設していたブログに掲載した記事を再編集して公開したものです。

著者の後藤勝(ごとう・まさる)さんはFC東京を中心としたサッカーライターとして活躍されているフリージャーナリストでいらっしゃいます。

2013年、サッカーコミュニティメディアである東京偉蹴(とうきょういしゅう)FootballのUstreamでご一緒して以来仲良くさせて頂いているのですが、「サッカー小説を書いている」と聞かされたのは今年になってから。ご自分のブログで公開されるのかなと思っていたら「夏に出版する」と聞いて更にびっくり。
拙著「妖刀 有安杏果論」にとてもとても熱い感想を頂いた手前、私もこの処女作をきちんと拝読して感想を書かないと人倫にもとります。
というわけで二日ほどで一気に読了しました。

簡単に概要を紹介します。
時は西暦2028年の東京。貧困層による反乱、地球規模の騒乱を経て世界の在り様が大きく変わった近未来。
その変容はプロフットボールの世界にも色濃く影を落としていました。
東京では、若き事業家・神足一歩(こうたり・かずほ)率いる「インテルクルービ」が日本での覇権のみならずアジア、そして世界へと勢力を伸ばそうと野心を抱えていました。
一方、コロンビアの麻薬戦争に端を発した混乱で落命しそうになっていた青年・群青叶(ぐんじょう・かなえ)は、すんでのところで謎の男・松重崇(まつしげ・たかし)に救い出され、帰国の途につきます。
松重の目的は、インテルクルービと同じ東京東部に拠点を置き、極度の経営不振に陥っている「銀星倶楽部」の社長に群青を就任させることでした。
明けて翌年2029年。めまぐるしく変わる周囲の状況に戸惑いながら、群青は銀星倶楽部の社長として、腹違いの姉でライバル・インテルクルービの専務である上水流奏(かみずる・かなで)や、銀星倶楽部の女子部のキャプテンである栢本里昴(かやもと・りよん)との微妙な関係を挟み、クラブの存続を賭け奮闘を続けるのでした。

後藤さん自身仰ってますが、今までのサッカーを題材にした小説なり漫画というのは大体、サッカーが好きな学生が成長して全国大会に出場するとか、代表選手となり海外へと飛び出すとか、そんなものばかりでしたよね。
この作品にはそんな「純真」な少年は出て来ません。
そもそもタイトルに「サッカー」も「フット」も「ボール」も、「ゴール」も「シュート」も全くありません。
物語の中に棲んでいるのは、立場と世代、そして出自は違えど、世界を巻き込んだプロフットボールの際限なき成長戦争に翻弄され、絶え間なく飛び交う「銃弾」を避けつつ、必死に生き残ろうともがき苦しむ人間たちだけです。
ピッチにいるプレイヤーたちは勿論、タッチラインのすぐ向こう側にいるチェシュラック、老松、木瀬といった監督たち、そしてピッチの外で自らの思惑と欲望を抱え持て余しながらも奔走する、群青、奏をはじめとしたクラブ首脳やスタッフや数限りない関係者。
みんな、みんな「フットボーラー」なのです。

率直に申し上げて、少々内容を詰め込みすぎ、そして終盤の展開がやや性急かなと感じました。
ただそんな些末な指摘がどうでも良くなるぐらい、徹頭徹尾フットボールの世界の「リアル」を追究しようとしたその意欲が全編に満ち溢れていて圧倒されてしまいました。
その「リアル」とは試合の描写だけにとどまりません。プロフットボールを取り巻く世界、たとえばクラブの運営や、世界の政治的、経済的、そして外交的状況と切り離せるわけがない事実を、冷酷なまでに描いています。
しかしそれは当たり前のことです。
昨今アジアチャンピオンズリーグで日本勢がまるで勝てていないのは経済的に勃興している中国の資金力が背景にあるのが紛れもない一因ですし、ワールドカップでイングランドとアルゼンチンの「因縁」がなかったらフォークランド紛争は回避できたかも知れません。
無論、安易に結びつけることは大変危険ですが、あらゆることは常にどこかで絡み合って、この複雑な世界を形作っているではないでしょうか。

残酷なぐらい唐突に巻き起こる、血で血を洗う紛争。
お金と野心、そしてちょっとした運でコインのようにすぐに裏返ってしまう世界。
出会う理由は希薄なのに、引き裂かれてしまうのには必ず厳然たる理由が存在するすべての愛情。
でもそれこそが群青たちの生きている「リアル」であり、我々が今生きている「リアル」なのです。

そんなくそったれな世界に完勝できなくとも、少しでもマシにしたい。
前回の対戦では0-4で負けていたのを、せめて3-4ぐらいにまではしたい。
できれば最後のアディショナルタイムでコーナーから頭で押し込んで、相手に「負けに等しい引き分け」を食らわせてやりたい。
みんなそう願って、それぞれのピッチでボールを蹴り続けているのだと思います。

目の前にあるフットボールは世界と地続きであり、あらゆる世界での出来事はすべて目の前のフットボールにつながっている。
そんな戯言を噛み締めながら、我々フットボールを愛するものはみんな「端境の者=エンダーズ」として、ピッチの中の出来事に一喜一憂していく。
それこそがこの世界で生き抜く唯一の道なのかも知れません。

後藤さん、素晴らしい物語をありがとうございました。
書き上げられたご苦労、想像するに余りありますが、次回作をやはり期待してしまいます。

因みに。
個人的な性的傾向としては断然奏さん推しなのですが、物語を読み終えた時にはすっかり蓮田(はすだ)チカちゃん推しになっていました。あれ、おかしいな?